不倫問題で緊急相談の方はこちら

TEL:0120-684-600 お問い合わせフォーム

枕営業は不倫じゃない?驚きの判決の解説

平成26年4月14日判決で、売春婦やホステスと枕営業の一環で肉体関係を持っても、婚姻関係の平和を害さないから妻は慰謝料を請求できないという判決がありました。
この判決(裁判官の名前をとって「始関判決」と言います)については新聞、雑誌、テレビで多数取り上げられ、当事務所も様々なところでコメントや出演をしましたが、この判決のポイントと、この判決を前提とした場合にどうなるかをまとめて解説します。
また、マスコミの方や一般の方々からいただいた質問にもまとめて回答しようと思います。

第1 始関判決の論理構造の理解

判決の論理構造は、以下の通りです。

1 売春婦との肉体関係は、「性欲処理の為に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻協同関係の平和を害するものではない」。だから、「たとえそれが長年にわたり頻回に行われたとしても・・・妻に対する関係で不法行為を構成するものではない」

2 ソープランドとクラブのママやホステスの枕営業は一緒である理由は、お金が直接的か間接的かに過ぎず、クラブの飲食代金に売春の対価が含まれている。

3 よって、ソープランドが婚姻協同関係の平和を害するものではないのと同じように、「クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」と認められる場合には顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻協同関係の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当」。

4 (傍論ですが)、出会い系サイトを用いた売春やデートクラブも「性欲処理の為に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻協同関係の平和を害するものではない」
という構造になっています。
上記を見て男性にとって有利な判決が下ったと考える方もいると思いますが、この判決の誤っている点を従来の最高裁判決と、社会常識から解説していきます。

第2 従来の最高裁判決と矛盾する点

1 最高裁昭和54年3月30日判決は、どちらが誘ったかに関係なく、また、自然な愛情関係があったかに関係なく、夫婦の一方と肉体関係を持った者は違法行為となり、慰謝料を払う義務があると明確に述べています。

また、この最高裁以降の判決においても、平成22年9月3日東京地裁判決においては、被告側が「妻は、その奔放な性的関心の対象として被告(男性)を選択したのであって、被告はいわば遊び相手であった。」という主張がなされたのに対して、被告がAと不貞行為に及んだことは争いがなく・・・被告がAと不貞行為に及んだことは、原告に対する不法行為となることは明らかである。」としており、加えて、大阪家裁平成21年3月27日判決においても、「原告A及び被告Dは、最初に不貞関係を持ったのは平成14年×月のことであり、当時はホステスと客の遊びの関係であったにすぎないと主張するが、そうであっても不貞関係であることには何ら変わりがない。」とホステスと客の遊びの関係であっても不法行為が成立することに影響はないとしています。

2 これに対して始関判決の趣旨を要約すると、「肉体関係があっても単なる性欲処理なら家庭に影響はない」ということを述べているわけですから、従来の最高裁判決や裁判例と矛盾する内容になっています。

3 従来の最高裁判決や裁判例は、愛情の有無を考慮せず客観的な肉体関係の有無問題にする考え方ですので、いわば客観説だといえます。同様に分析すると、始関裁判官の考え方は、肉体関係があっただけでは足りず、家庭生活に影響を与えるかの判断には愛情があったかを問題にする考え方ですので、主観説(愛情説)と分類できます。
しかしながら、そもそも愛情があったかをどう認定するのか困難ですし、本件でも7年間も肉体関係があったのに愛情がないとしている点からしても主観説(愛情説)は、裁判官が考える性的職業かどうかという職業的属性によって区別する性的職業説と言えるでしょう。

第3 社会常識から見ておかしい点

1 ソープランドに行くことは家庭の平和に影響を与えないのか?
これは当然影響を与えると思います。それで離婚されるかどうかということについては異論がある方もいるかもしれませんが、離婚しないにせよ妻(ホストとの枕営業の場合は夫)が我慢をしているだけであって、家庭の平和に影響は多大だと考えるのが通常の感覚でしょう。
この前提が崩れれば、そもそも始関判決の論理構造は成り立たないことになります。

2 クラブの代金に売春代金が客観的に含まれているのか?
これも始関判決は当然のように書かれていますが、クラブに行っている方がすべて売春を目的としていると捉えられかねません。また、これを前提とすると、クラブのママやホステスが肉体関係を断ったときに代金を返さなければならないのでしょうか?
始関判決を前提とすると、間接的な対価を支払ったのにサービス(枕営業)をしてもらえない場合は代金の不当利得であるから返還しなければならないのかという問題が生じそうですが、それは公序良俗に反するから返金しなくて良いというのでしょうか?
始関裁判官は、「枕営業契約は公序良俗違反であるから返還請求は認められない」と言いそうですが、そうするのであれば、一方で公序良俗違反の行為としながら、同時に妻との関係で問題の無い行為だとすることと法的秩序に関する重要性においてバランスを失していると思われます。

3 愛情の有無を外形的事情から判断できるのか?
始関判決は、ソープランドやクラブママやホステスとの肉体関係は全て「顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎ」ないとしています。
しかしながら、ソープ嬢と結婚した野球選手や、クラブのホステスと結婚した芸能人もいるように、肉体関係を継続する中で愛情が生まれる場合もありますし、そもそも出会いの形がお客とプロであっても愛情が生まれることもあるのがむしろ常識かと思います。
この点からも、始関判決は、男女の心の機微や人間の心情に対する理解が浅い判決だと思われます。
始関裁判官は、ソープ嬢やクラブのホステスは性欲処理の道具であり、人間として付き合う相手ではないと考えているのでしょうか?との疑問も生じます。

4 本件について7年間も関係が継続しているのに愛情がないと言えるのか?
始関判決は、7年間関係が継続したとしても、その間優良顧客であったのだから枕営業の範疇であるとしています。
そして、始関判決は同じように枕営業=性欲処理のために応じるだけのこと、と評価しているので、夫は同じ女性を7年間性欲処理として使い、ホステスはそれに応じたという理解を始関判決はしていることになります。
同じ女性を7年間も性欲処理のために利用するという考えが、やや常識はずれで愛情がなければ継続はできないのではないかと思いますが、この夫は本当にクラブのママに愛情がなかったのでしょうか。
この点、始関判決は、夫の心情について夫やホステスの尋問などはせず、単にクラブの顧客であったという一事情をもって判断しており、職業という属性のみによって肉体関係に愛情を伴わないと判断している点につき疑問が生じるところです。

5 ソープランドが管理売春にならないこととの論理矛盾
建前上、ソープランドではお客とソープ嬢とが肉体関係を結ぶことは、代金の対価として保証されていません。
なぜなら、顧客に対して肉体関係を保証してしまうと、店が売春防止法上の管理売春に該当してしまうからです。
よって、建前上ソープ嬢は入浴介助をするだけのことであり、肉体関係にまでそこで発展するのは、「偶然毎回お客さんと恋仲になってしまう」ということになっています。
しかし、始関判決は、ソープ嬢は単に「顧客の性欲処理に商売として応じた」だけですので、始関判決によればソープランドは管理売春を行っていることになります。
これはこれで摘発すべきというのが始関裁判官の価値判断であればそれ自体はおかしくないと思いますが、論理矛盾は気になるところです。

第4 始関判決が一般化した場合の影響

始関判決が一般化した場合、どのような影響が予想されるでしょうか。

1 夫も妻も「性欲処理の為に商売として応じる人」に「対価を間接的にでも渡して」肉体関係を持っても許されます。
許されるということは、離婚もされないし、慰謝料も取られないということになります。

2 クラブのママやホステスはソープ嬢と同じ扱いということが常識となります。
そして、客の性欲処理に商売として応じる職業ということになります。

3 夫(または妻)が性風俗に通ったことをなじり続けて夫婦関係が悪化した場合、なじった方のせいになります。
法的に「婚姻生活に影響を与えない行為」に対してなじり続けたことになりますから、なじり続けた方が悪いということになります。
例えるなら、お小遣いの範囲でお酒やギャンブルをしているだけなのになじり続けられた場合、なじった方が悪いということになるのと一緒です。

4 間接的に対価を得ているということが拡大解釈されれば、不倫が許容される範囲が広がります。
始関判決では、金銭が間接的に女性に渡される関係性をもって枕営業と判断しているので、現時点においては、テレビで問題となった生保レディを含む営業職の方が営業成績を上げるために肉体関係を持つ場合や、女優やアイドルとプロデューサーといった会社や仕事を得るために肉体関係を持ち、その結果、営業成績への評価や社会的地位や仕事を介して金銭が女性に入る形態においては直ちに枕営業とは評価されないでしょう。
しかし、その一方で始関判決は間接的に利益を得るという場合について金銭の移動のみに限定はしておりませんから、今後間接的な利益という解釈が拡大されれば、金銭のみならず営業成績や社会的地位、仕事といった利益を得られる場合でも枕営業と解釈される可能性があります。
逆に言えば単なる売り上げといった金銭的利益より、営業成績や社会的地位、仕事の方が金銭的利益が女性に生まれることもあるのですから、これらを別に考える必要もなく、今後枕営業とされる範囲が広がり、不倫ではないとされる範囲が広がるでしょう。
その結果、今までであれば問題なく不倫とされた上司部下の関係であっても、部下が上司と肉体関係を持つことで社内において間接的な利益を得ていたという理由から不貞ではないとされる可能性がありますし、むしろ始関判決の下では不貞行為に及んだとしても、違法な不貞と評価されなくなるでしょう。

第5 始関判決が出された理由の推察と考察

1 始関判決が出された理由には様々な理由が考えられますが、判決文から幾つか推察します。

2 原告及びその代理人に対する悪感情
判決によると、被告からは、本件訴訟は不貞をした夫が、今まで被告(クラブのママ)に使った金銭が惜しくなり、金銭を取り返すために妻から訴えさせただけに過ぎないという主張がされています。
この主張に始関裁判官が同調し、法的理論や最高裁判決に逆らう結論になったとしても、なんとしても原告を負けさせようとした可能性があります。
また、判決文においては、判例引用について、原告が判例タイムスという判例雑誌から引用したことに対し、「原告は・・判例タイムスしかあげていないが、最高裁判所民事判例集に掲載されている正式な判例である」と、判例雑誌から引用することが誤りであるかのような注文をわざわざつけています。
このような注文を行うことは異例であり、よほど原告側に悪意がある場合が推定されます。そもそも、判例雑誌から引用することは実務上よく行われています。
判例の存在については裁判所の職責(判例なのだから当然裁判官は知っているという前提)ということもあり、このような指摘をすることは原告代理人に対する個人的な嫌味とも評価できる行為、少なくとも裁判官が冷静な精神状態で判決を書いたのではないと推察されます。

3 性風俗や高級クラブへの擁護
ソープ嬢やクラブのママに対する賠償責任を否定した始関裁判官は、一見するとソープランドや高級クラブに対する寛容性を有しているようにも思えますが、私が知る限り裁判官はその立場から、夜の店には行かないようにしているか他人からわからない方法で行く方が大多数です(なお、裁判官は公人ですから私生活上の行為が報道されても名誉毀損とはならないでしょう)。
また、裁判官は自らの偏見や嗜好によって判決をなしたと世間から非難されることを最も敏感に嫌がる傾向があります。
よって、始関裁判官が夜の店が大好きで今回のような判決を出したとは考え難いです。
むしろ、クラブのママが優良顧客には高確率で枕営業してくれるという理解や、ソープランドで肉体関係を持ってもそこには愛情がないから夫婦間の平和に影響がないと明言していることからして、こういった男女の性愛や付き合いに無関心なタイプなのではないかと推察されます。
ソープランドや高級クラブは性欲処理の道具だという切り捨てからから見ても、そういったお店に対して関係を持ちたくない、避けたい、という感情があるタイプとも思われます
よって、始関裁判官が性風俗や高級クラブを擁護するために判決を出したということは考えにくいです。

第6 Q&A

Q 非常識な理由に基づく判決に第三者が抗議する手段は?

非常識な判決を出す裁判所に抗議したいと考えても、通常、第三者が判決内容に抗議する手段はありません。
原告や被告といった判決の当事者であれば、負けた部分について控訴することでさらに上級審に対して判決が間違っていると主張することは出来ますが、第三者が判決がおかしいからといって控訴することは出来ません。
また、裁判官は憲法上身分が保証されていますので、1度裁判官となったら10年間はクビにされません。実際は10年どころか定年までクビになりません。これは裁判官が自らの信条に基づいた判決を下せることで司法権の独立を守るための制度ですが、だからこそ始関裁判官は思い切った判決を書けたのです。
このように強く身分保証され、判決がおかしい場合でもクビにならない裁判官ですが、どうしても抗議したいという場合には、間接的ですが、このような始関裁判官を10年毎に再任する裁判所に対し抗議するため、衆議院選挙の際に行われる国民審査において最高裁裁判官を罷免するため×印をつける方法があります。また、デモ行進などで世論に訴えかけることも憲法上認められた権利ですが、判決の不当性を訴える方法としては間接的な効果に留まります。

Q この判決の今後の影響は?

今後の影響は限定的で、今後同じような判決が出る可能性は低いです。
なぜなら、始関判決は国民の社会常識とかけ離れており、裁判官は社会常識の範囲で判決をする義務が法律上あることから、同じようにこの義務に背く裁判官が続くとは思えないからです。
裁判官が社会常識の範囲で判決を行う義務がある理由について解説すると、原則として、裁判官は、判決を自由にできます。これを自由心証主義といいます。
しかし、自由心証主義にも制限があり、自由なのは社会通念上の経験則の範囲内に限られ、事実認定が常識に反し論理に飛躍のある場合には上告理由にすらなる違法な行為となります。
始関判決は、売春婦との肉体関係は、「性欲処理の為に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻協同関係の平和を害するものではない」、ソープランドとクラブのママやホステスの枕営業は一緒であるとしています。理由は、お金が直接的か間接的かに過ぎず、クラブの飲食代金に売春の対価が含まれているといった点において社会常識とかけ離れているので、今後同じような判決を他の裁判官が続けるとは考え難いです。

Q 問題裁判官にあたったらどうしたら良いのか

何が問題裁判官かという問題はおいておくとして、今回の始関裁判官のように、当事者の主張に出ていない理由を突如だし、丁寧な訴訟指揮もせずに社会常識に反した判決を出しそうな裁判官にあたったときはどうしたら良いのでしょうか。
そのような場合、問題裁判官に適切な判決をしてもらうことはまず期待できないので、まずは控訴審での逆転を念頭に訴訟活動をする必要があります。控訴審は原則的に当事者を尋問せず、記録だけで判断するので、自らの主張をできる限り記録に残すことが必要です。特に当事者のどちらかが検討すべき主張をしているのに、それに対する判断が全くないということや、裁判所の判断に明確に矛盾する客観的証拠が存在することを記録に残すことが必要です。
そして、判決に不満がある場合にはすぐに控訴しましょう。
なお、問題裁判官の種類には、今回の始関裁判官のように独自の考え方をもっているいわば唯我独尊的な裁判官だけでなく、単にちゃんと考えるのが面倒くさい、忙しい、という気持ちが訴訟指揮に現れてしまい、当事者からみたら問題裁判官と感じてしまう場合もあります。
このような場合の対応は、こちらよりも相手方を説得した方が楽だと思わせる訴訟活動を行う、具体的には書面でし得る限りの主張をする(普通の裁判官であればこんな無理な主張をするなんて良くないと思うようなことも含め)、これ以上譲歩するのであれば和解が難しいと伝える。裁判所に相手方を説得する材料を与える。こちらを説得しようとしても難しそうだと思わせる。等の対応をすればよいのでまだ対応が可能です。

Qなぜ控訴しなかったのか

不満のある判決に対しては当然控訴するはずだとみなさん思われるでしょう。
しかし、この判決のように予想もしなかった理由で負ける場合、原告代理人と原告との間に信頼関係がなくなってしまい、その結果控訴期間の2週間以内に控訴するという選択をしないまま時間だけが経過してしまうということがあります。
なぜ信頼関係がなくなってしまうかというと、原告代理人も予想しなかった理由で負ける場合、敗訴のリスクや予想を受任時に原告に説明しておくことが不可能だからです。そして、説明していない理由で敗訴した場合、原告としてはあらかじめ説明をされていない理由で負けたことから、原告代理人の能力や資質に疑問をもってしまうからです。
本件でも、まさか原告代理人の先生は枕営業は家庭生活に影響を与えないから敗訴する可能性があるという予測をすることは不可能であり、その結果原告にあらかじめ説明することも不可能でしたでしょう。
このように始関判決がまったく予想しえない判決であったことから、原告と原告代理人との間の信頼関係にヒビがはいって控訴できなかったということが予想されます。

Q 他にトンデモ判決ある?

最初にお伝えしたいのは、大多数の裁判官は社会通念も把握できており、真っ当な判断を下すことが可能です。
しかしながら、ときどきトンデモ判決やトンデモ裁判官が存在することは否定できません。
当事務所で経験があるだけでも、「ラブホテルに入ったのは具合が悪かったから休んだだけという夫の言い訳を認めた裁判官」「父親には子供への愛情なんてないんだから親権欲しいなんていうな!と言い放つ裁判官」「根拠はないが払えるんだからお金を払いなさいと言い放つ裁判官」「妻を投げ飛ばし、風俗に通い、家に大量のポルノ雑誌が置いてあっても有責配偶者でないと認定する裁判官」「不貞をしている妻が求めただけで、具体的な根拠もなく毎回夫を遮蔽措置する家庭裁判所の裁判官(DVの主張もないので遮蔽の必要性が不明な事案)」などなどという方がいらっしゃいますが、それらの裁判官はほんの一握りの方です。
ただし、裁判はみなさんが思っているよりも裁判官の独自の価値観や考え方のくせによって判決が左右されますので、少なくとも問題裁判官については知っておく必要があると思います。当事務所では裁判官の特徴的な発言や行動については、それが良いものも悪いものも全部事務所内でデータベース化して事件処理の参考にしております。

コラム

専用フリーダイヤル
0120-684-600

営業時間 10:00~19:00
土日相談対応可
当日の予約も受け付けております

不倫相手と円満な別れが可能です。男の不倫と慰謝料の問題なら「弁護士法人フラクタル法律事務所」へ